黒龍ブランドストーリー

感謝と、信頼に満ちた笑い声が、
阿難祖の夜に溶けてゆく。

この夏の、強い日差しにも負けず、一日一日を大切に大地の恵みを吸収して成長した稲たちは、鮮やかな黄金色に染まった実をふんだんに実らせて、深々と頭を垂らしている。

盛夏を過ぎると、酒蔵にとって本格的な「稲刈り」の季節が訪れる。酒米の五百万石は、ごはん用に収穫される飯米よりも多少早めの8月下旬~9月中旬頃が刈り入れの時期となるからだ。
生産者として、手塩にかけて育てた米の収穫は、集大成となる最も大きな仕事である。この時期、生産組合の方々は今まで以上に気候と稲の生育状態に気を配る。酒米の稲刈りは天候に大きく左右されるため、不安定な気候の年は刈り取るタイミングを見切ることが大変難しくなるのだ。では、稲の生育と、天候にはどのような因果関係があるのか。

黒龍酒造の試験田がある大野市阿難祖地頭方地区は、山々に囲まれた地形である。潤った気候と水源が豊富なことも相まって、気温の上がる夏場は特に水蒸気が発生しやすく、湿度が上昇しやすい。この地区特有の日較差と湿潤な気候が、良質な酒米を生み出してくれるのだ。

しかし一方で、粘土質の土は水分を含みやすく、雨などの影響を受けやすい。水分を多く含むと田んぼはとたんに粘りのある柔らかい土となり、足場を悪くし、刈り取り作業に大きな支障を与える。
つまり、天候の状態、稲の実り具合、刈り取りをしやすい水田の土の状態を見極めることは、極めて難しいということになる。だからといって、収穫を何日かに分けて行うと、米の品質にバラつきがでてしまい、酒造りに影響してしまう。
迅速に行うのが望ましいとされる稲刈りを、いかにタイミング良く、効率的に進めるかということが、この土地での最重要課題なのだ。

このように、日々表情を変える「稲」「土」「自然」を相手にしながら、作り手として目指す方向に生き物を育むには、まさしく長年の経験で得た知識と、確かな腕が必要となるのである。

稲の登熟具合、土、天候の条件が申し分なければ、朝早くから稲刈りを開始する。そこからおよそ5日間をかけ全ての五百万石を収穫する。
美しく金色に染まった米の一粒一粒をじっくりと観察し、出来の良し悪しを確認しながらの作業だ。ふくよかに育った米を眺めながら、日頃は厳しい篤農家たちがやさしく微笑む瞬間である。その顔には、立派に育ってくれたことへの喜びと感謝の思いがこもった、母親の様な表情がふとよぎる。

さて、こうして収穫された酒米は、この後に乾燥、モミすり、精米の処理を施され、いよいよ酒造りの舞台である酒蔵へと運ばれていく。酒造りへの第一歩となる大仕事を終え、農家の方もようやく一息つくことができる。

毎年、阿難祖公民館は、収穫を祝うと共に、その年の酒米の出来や、今後の更なる米と酒の質の向上を目指して話し合う場となる。蔵元と生産組合の方々との交流を深める場として、懇親会が開催されるのだ。酒米を精一杯作り終えた者、その米をこれから酒へと仕立てていく者。しかし、互いの目的はといえば「良い酒」ができることだ。まだまだ、先は長い。そのための情報を得るために、米のコンディション、今年の酒に関する熱心な話し合いが尽きない。

酒米を通じて出会った職人同士、信頼し合う仲間だけに許される語り声と笑い声が、虫の音ともに秋の阿難祖の夜に溶けてゆく。

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