黒龍ブランドストーリー

酵母、醪(もろみ)、自然との関係維持。
愛情を超えた、慈愛という仕事がそこにある。

大きなタンクの中を蔵人が長い櫂棒でかきまぜているシーン。酔いの海へと誘う船を漕ぐような、おなじみの風景が醪(もろみ)造りの工程である。醪とは、前回ご紹介した酒母工程で増殖した酵母を仕込蔵にあるタンクに移し、添(そえ)、仲(なか)、留(とめ)と3段仕込みで蒸米、米麹、仕込水を加えたものをさす。その状態から、長いもので35日、短いものでも約20日間、タンクの中では酵母が発酵を続けアルコールが生み出される。これを濾して清酒黒龍、九頭龍の源を生むのである。

この醪工程において最も重要な仕事が、醪の温度管理である。吟醸酒の大きな特徴であるフルーティーな吟醸香は、徹底した醪の低温管理から生まれる。さらに言うと、デリケートな工程は醪の母、酒母の生育から始まっている。酵母にとって最適な温度よりも低温にて生育を抑制しながら育成することで、米と水から生まれてくるとは到底想像がつかないような果実の様な香りが酒蔵の中に漂ってくるのである。

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この醪の低温管理を徹底するため、蔵人は1日に3、4度、タンクが並ぶ仕込蔵へ通って中の醪を検温し、予定通りの温度に保たれているか、また正常な発酵を続けているかを確認する。検温作業は朝早くから深夜にまで及ぶ。さらに、気候の変化、酵母の生育状況の影響により、少しでも予定の温度から外れそうな兆候があると、タンクの胴回りに巻いてあるマットに冷水の量をコントロールして流しながら、醪の温度を調整する。愛しむ(いつくしむ)とは、まさにこの仕事のためにあるかのように。

大吟醸クラスになると0.1℃単位での温度管理が求められるため、日夜神経をすり減らしての作業となる。温度管理の大切さは醪のみならず酒母にも共通し、時には冷え気味の酒母タンクに、保温マットを巻き、電球をあてて温めたり、発酵が促進気味(足早)の場合にはタンクのまわりに氷を巻いて酵母の働きを抑制したり…。醪管理とは、気候と微生物の関係という、目に見えない自然現象が相手の繊細で緻密な仕事なのである。

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