ブランドストーリー

山あいの、小さな田んぼから、黒龍の産声が聞こえてくる。

良い酒を作るためには、作り手の技術はもとより、米、水といった原料の品質も重要な要素となる。今回は黒龍の仕込みに使用される原料米「五百万石」について。その、春から秋にかけての成長の様子を辿ってみたい。

福井県北部に位置する大野市は、山々に囲まれた自然豊かな土地。酒造好適米「五百万石」の産地として全国にその名を馳せている。弊蔵は、市内を少し北へ向かう阿難祖(あどそ)地頭方地区にある「味の郷生産組合」の契約農家と提携しており、丹精込めて作られたこだわりの酒米を提供していただいている。

阿難祖地区の田には、山際を流れる赤根川の水が引かれている。大きな川ではないが、きらきらと輝き透き通る清水が流れ来る。この水は、奥にそびえる山「銀杏峰(げなんぽう)」の雪解け水で、源流近くの山肌には田植え時期の5月でも残雪を見ることができる。雪解けの凛とした水は、銀杏峰の滋養を存分に蓄えながら地下へとしみ、濾過を重ね赤根川へと流れ込む。滋味豊かな水は米をはじめ、蛍、メダカなど水の都大野の里山に生息する貴重な生物の命の源にもなっている。美しい水を誇る大野市では、廃水・汚水処理などの取り組みが盛んで、赤根川の清い水も生産組合の方々や阿難祖地区の住民の方々に守られている。

この地域は、土壌にも恵まれている。一般的に田の土は、握ると団子状になるような、粘土質で粘りが強いものが良質とされる。「甘土(あまつち)」と呼ばれるこの表層部の土は、阿難祖地区の田に豊富に含まれている。甘土の田では、苗がしっかりと土を掴みたくましい根を張ることができる。根は土に含まれる栄養をたっぷりと吸収し、地上では山から吹き下ろす強風にも平然と耐える稲が育つ。

4月下旬~5月上旬は、待ちに待った田植えの季節。組合の方々は天候や土の具合のよい日を見定め、早朝より手間ひまかけた苗をビニールハウスから軽トラックに積み込む。背丈を揃え青々と育った苗は、短いがしっかりとした根をそなえている。苗は田植え時期に合わせて育てるが、気候に敏感なため生育には繊細な作業と心配りが必要だ。最適な量の水や肥料を与え、ビニールハウスの細やかな間隔の温度調節等々、昼夜を問わずつきっきりで行う世話は、まるで母がわが子を育てるようである。

「天気と気温だけはわし等にもどうすることもできんでなあ。その時その時の状況にうまく合わせていくしかないんや。」

生産組合の理事を務める篠原さんはつぶやく。

厳しく、優しい自然と人が一体となって作り上げる酒米。山あいの、小さな田んぼから、黒龍の酒造りはもう始まっている。