ブランドストーリー

生真面目な箱入り娘は、故郷の意匠を身にまとう。

「自分で造った酒というのは自分の娘みたいなもの。きれいな着物を着せて嫁入りさせたいという気持ちが親心というもので、ラベルや化粧箱にも力を入れています。」
7代目蔵元(現会長 水野正人)の言葉である。「良い酒を造れば、人は必ず支持してくれる。」という思いを伝承し、米や酵母をはじめ、酒造りの技術において多年にわたって研鑽を積んできた黒龍酒造の姿は、これまでのブランドストーリーでも紹介させていただいた。しかしながら、この酒質に対するこだわりに負けないくらい注力してきたのが、商品のボトル、ラベル、化粧箱等のデザインである。

その中から今回は、ラベルをご紹介させていただく。例えば「黒龍 大吟醸 龍」。1975年に発売され、黒龍酒造が吟醸蔵としての道を歩む大きな転機となった商品である。この龍のラベル地に使用されたのが、醪を搾る際に使用する酒袋であった。当時の酒袋は綿の生地に耐久性と、殺菌目的の柿渋が施されており、茶褐色の染め斑が味のある風合いを醸し出していた。その酒袋をラベルサイズに切り取り、「龍」の文字を金箔押にしてボトルに貼り付けたのである。発売当時、一升瓶で5,000円という価格が日本一高い酒と話題になったが、その時評に見劣りしないラベルを貼ってやりたいという蔵元の親心が感じとれる。ただ、現在は柿渋を施した酒袋自体が骨董になっており、もはや入手困難。現在は、越前織の布で代用している。

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また、あまり知られていないが、福井県には越前和紙を産出する日本最大級の和紙産地が存在する。産地から生み出される奉書紙、木版画用紙、書画用紙は書画界の重鎮に愛用され、その高い技術は人間国宝も輩出している。この越前和紙を用いた酒ラベルを初めて使用したのが、「黒龍 しずく」。伝統工芸品規格をクリアした和紙ラベルに描かれた吉川壽一先生の書「しずく」は、まさに芸術品そのものである。和紙ラベルは、他にも「石田屋」「二左衛門」「火いら寿」など、蔵を代表する商品に一本一本丁寧に手作業で貼られている。
酒の性格を損なわないよう、ラベルひとつひとつにもこだわりぬく。水野正人、親心の真骨頂が垣間見える。