ブランドストーリー

一滴一滴が時を刻みはじめる頃、私たちの想いは過去へと逆行する。

酒を搾る瞬間に込められた蔵人の想いは、それぞれに並々ならぬものがある。酒米の初洗いから数えて長い工程のもので54~55日。苦労した醪であればあるほど、良酒が搾られてきたときの感動は言葉では言い表せないものだ。
「これは満足いく出来の酒だ」と思えたときには、これまでの苦労が脳裏をよぎり、スッと消え去る。喜びもひとしお、蔵人の努力が報われる一瞬である。

高級酒の搾りには酒袋を使用することが多い。黒龍酒造では酒袋に入れた醪を吊り下げて、自然に滴り落ちるしずくを集める「袋吊り」という方法、または槽(フネ)と呼ばれる旧来の油圧式酒搾り機を用い、醪を入れた酒袋を搾る方法をとる。但しその管理、使い方には相当の手間と経験を必要とする。例えば槽を使用しての搾りでは、醪を入れた小さな酒袋を圧搾槽の中に整然と積み重ね、その上から圧力を掛けて搾るのだが、その間、酒袋の口は特に結ぶようなことはせず、折り曲げただけの状態でなければいけない。そのため、経験の少ない蔵人だと、積み重ねた酒袋の口からは醪が吹き出し、搾ったお酒が白濁してしまう。修練を積んでからでないと、この仕事はやらせてもらえない重要な工程なのだ。

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黒龍酒造の槽場(ふなば)に並ぶ2艘(槽の名は船に由来する。酒搾りに関する呼称は船に当てはめたものが多く、おもしろいものでは酒搾りの責任者を船長と呼んだりもする。)の槽は、特別注文により造られたものである。
というのも、平成6年に現在の醸造蔵である龍翔蔵が建てられる前まで黒龍酒造には連続式圧搾機が無く、すべての酒搾りを槽にて行っていた。
先代の槽は型式は古いが圧搾能力が非常に高いものであったため、現在市販されているものには代替となるものが無く、老朽化した先代の槽の圧搾能力を再現できるものを特別に製作する必要があったのである。

こんなエピソードからもわかるように、時代の移り変わりと共に設備も変化してゆく中、伝統技術でものを造る仕事に携わるものにとっては、これまでと同じ手法で作業を継続してゆくということ自体に、強い信念が必要となってくるのかも知れない。
私たちは、メーカーであると同時に日本が誇る伝統技術の担い手であるというプライドを築き続けなければいけないのだろう。